中村さんは、入社して2年間は徹底的に印刷について叩き込まれたという。先輩社員からは「2年間は我慢しろ」と言われ、この間に製版や印刷の現場に「張りつけ」られた。そんななかで、中村さんが印刷会社の営業としての苦労を味わったのは、入社して4か月目の8月のことだった。外注先の工場でポスターの印刷立会いを任され、一人で向かった。午後3時から印刷立会いが始まったが、色が上手く出ず、泣きながら「色が出ません」と上司に電話連絡を取った。その時、中村さんは色が再現されない悔しさと同時に、色を出すということがどれほど難しいかを思い知り、印刷現場の大変さを身にしみて感じたという。後にOJTの先輩から「印刷は生きもの。営業がどれだけ責任を持って顧客の要望に沿ったものをつくるかで、印刷の色はまったく違ってくる」と言われたときにも、このときの体験が思い出され、辛かった体験が貴重なものだったことを知った。「1年目は、お客様より現場を見ていた」というほど印刷工場に通った中村さんは、今でも営業の外勤の合間など、時間があれば現場に行くという。「営業は先陣にいるため、仕事に対する評価が直接お客様から伝わってきます。反省点があれば現場に意見として戻しますし、賞賛があれば、それは現場も含めてのものなので、必ず伝えるようにしています」と中村さん。3年間の営業活動で、自分の仕事を現場がいかに支えてくれているかを実感し、仕事についての惰報の共有を大切にしている。地道な仕事の積み重ねが生んだ、入社2年目の快挙中村さんが配属された当時、キリンビバレッジの営業は、先輩がゼロから始めたところだった。中村さんはその先輩と2人で挑むこととなった。営業は、競合する他社との凌ぎ合いになる。大日本印刷は業界のトップに立っている企業だが、「商業印刷の分野で、大日本印刷の名前ですべてが有利になることはない」と中村さんは話す。商業印刷の仕事は、ポスターやPOPなどの販売ツールの製作が主なものになる。極端な言い方をすれば、こうした仕事の多くは、印刷設備のあるところならどこでもこなすことができる。このため、営業は顧客の懐に深く入り込むことが必要になる。中村さんは仕事を始めた当初、納期的にも採算的にも厳しい仕事が多く、印刷現場に何度も怒られたという。しかし、こうした仕事を無理を承知で取ってきたのには理由があった。一つは、とにかく実績をつくり、製品で納得してもらうこと。もう一つは、担当者とより多くの接点を持つことだった。こうした中村さんの粘り強い営業と印刷現場の協力が効を奏し、相手の見方もしだいに変わっていった。製品の品質や仕事のスピード、対応の素早さが認められたのだった。信頼を得ると、次には向こうから声が掛かり、仕事がもらえるようになった。また、担当者と商談の時間が取れるようになると、大日本印刷がもっている独自技術や提供できるサービスを説明し、受注する仕事の幅も広がった。そして、ついに積み上げてきた仕事が大きな仕事を生むこととなった。キリンビバレッジがコーヒー飲料の小売店向けキャンペーンの仕事を発注してきたのだ。社内では、中村さんをはじめ営業部のスタッフと印刷現場、それにキャンペーンの企画やWeb・電子メディアの制作、キャンペーンの応募を受け付ける事務局など、複数の部署を横断したチームが結成された。メーカーが持っている各地域の小売店舗のデータを企画部門が分析し、地域ごとの商品の浸透度や店別の取扱の有無を含めたデータが揃えられた。キャンベーン事務局を設置し、個別の小売店に対応したDM、キャンペーン用の販売ツールが製作、配布され、その反応と結果は1年間追跡された。この中村さんのチームの仕事は、社内で優秀な業績を顕彰するその年の「社長賞」の栄誉に輝いた。当時の上司からは、「大日本印刷は企画やWebなど、さまざまなことができる。しかし、印刷会社として印刷で信頼を得たからこそ、大きな仕事を任されたわけで、日頃の仕事の結果だ」と普段の積み上げてきた仕事をねぎらう言葉があったという。中村さんは、営業の仕事に3年間従事し、多くの人が自分を育ててくれたことに感謝している。「お客様が悩んでいることは一緒に悩んで解決しろ」「納期について社内で叩かれても、常にお客様の側を向いていろ」など、先輩の多くのアドバイスに助けられた。また、社風として若手とベテランという世代間、営業と印刷という部署間の交流や連携がスムーズに行われているため、新人ではわからない部分も、ベテランや印刷現場の意見や知恵で解決法が見出せ、大いに力になっている。大切なのは文化財そのものを再現するという気持ち凸版印刷は、最新のデジタル化技術を応用した文化事業の推進にも積極的である。その一つが、バーチャルリアリティ(VR)だ。バーチャルリアリティとは、コンピュータで生成された3次元コンピューターグラフィックス(CG)の映像の中を自由に移動しながら、その3次元空間にいるかのような感覚を体験することができるものだ。要素となるのは、空間を構成する高精細3次元データ(形状、質感、光など)と、そのデータを操作に応じてリアルタイムに描画生成する技術である。